2024年12月4日(水)から5日(木)までの2日間、我が国の治山技術等の海外展開を促進することを目的とした技術者研修を実施しました。会場受講生は8名、オンライン受講生は1名のほかに若干名の聴講者が参加しました。
研修プログラムと講義概要は以下のとおりです。
研修プログラム
月日 |
時刻 |
講義名 |
講師名 |
12月4日(水) |
09:00-09:30 |
開会式・事務連絡 |
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09:30-11:00 |
気候変動適応策としてのEco-DRR概論:森林の機能に注目して |
中村太士(北海道大学大学院) |
11:10-12:10 |
JICAによる治山関連分野の取組と今後の展望 |
川口大二(JICA地球環境部) |
13:10-14:50 |
途上国における住民の土地利用と防災に関する意識 |
岩永青史(名古屋大学) |
15:00-17:15 |
我が国の治山技術のベトナムでの適用に向けた技術開発 |
岡本隆、鈴木秀典、道中哲也、村上亘(森林総研) |
12月5日(木) |
09:00-12:30 |
途上国におけるGoogle Earth Engine等を用いた斜面崩壊地の自動抽出 |
大丸裕武(石川県立大学)、村上亘(森林総研) |
13:30-16:45 |
治山事業の海外展開に係る資金ソースと事業とのリンク |
樋口辰徳(JICA民間連携事業部) 松野下稔(JICA南アジア部) 古市剛久(森林総研) 鈴木聡(奥山ボーリング株式会社) 菅野孝美(川崎地質株式会社) 森川悠太(国際航業株式会社) 水口洋二(日本工営株式会社) |
16:45-17:15 |
閉会式・事務連絡 |
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講義概要
◯気候変動適応策としてのEco-DRR概論(中村講師)
科学的知見に基づく森林の防災機能(皆伐の影響など)、過去の大規模な地震や水害の事例分析、気候変動適応策としての自然再生の可能性、生物多様性に配慮した流域治水の取組などについて解説いただきました。
◯JICAによる治山関連分野の取組と今後の展望(川口講師)
JICAによる自然環境分野の包括的な取組内容、その中の治山・Eco-DRR分野の世界各地のプロジェクト事例を紹介いただき、最後に国際協力における治山・Eco-DRRの今後の課題(国民性、法規制、資材確保等技術面など)と可能性について解説いただきました。
◯JICAによる治山関連分野の取組と今後の展望(JICA地球環境部)
JICAによる自然環境分野の包括的な取組内容、その中の治山・Eco-DRR分野の世界各地のプロジェクト事例を紹介いただき、最後に国際協力における治山・Eco-DRRの今後の課題(国民性、法規制、資材確保等技術面など)と可能性について解説いただきました。
◯途上国における住民の土地利用と防災に関する意識(岩永講師)
東南アジア各国の森林政策の変遷(丸太輸出禁止など)について紹介いただき、また、アジア各国での調査事例をもとに、自然災害に対する農民の意識のタイプ別(災害が多い、災害が当たり前、災害がない)で農民の生計手段や木材生産がどう変わるかを分析した結果について解説いただきました。
◯我が国の治山技術のベトナムでの適用に向けた技術開発(森林総研)
森林総研では、令和2年度から、日本の治山技術を開発途上国に適用するための方法についてベトナムをフィールドとして調査・研究を行っています。ここでは、これまでに得られた知見について、山地災害、道路、社会科学的な側面から取り上げたほか、リモートセンシング技術を活用した途上国における斜面災害リスクマップ作成について概説しました。
岡本講師からは、ベトナムにおける山地災害の特徴と、経済発展に伴う森林の土地改変が災害に及ぼす影響を紹介しました。また、貧困を理由とした山腹斜面の積極的な農地利用が森林回復を遅らせている現状などを解説しました。
鈴木講師からは、ベトナムにおける山地道路の現況および課題について、日本の山地道路と比較しながら解説しました。また、ベトナム山地道路の切土のり面崩壊について、崩壊機構を解明するための調査内容を紹介しました。
道中講師からは、ベトナムでの調査地における地域住民の防災意識やニーズ、行動、地域愛着の因果関係等について紹介、災害が発生し、防災意識も高いものの、頻度や規模が大きくなく、時間的・金銭的・精神的なコストからどこまで実施するかといったことを明らかにする必要性を解説しました。
村上講師からは、リモートセンシング技術を活用して途上国における斜面災害リスクマップを作成する際に使用可能なデータと作成に当たっての留意点を、ベトナムでの実例を踏まえて解説しました。また、リスク評価及び作成したリスクマップを利用する際は土地利用の違いが斜面崩壊の発生リスクに影響を与えている可能性があり、現地の状況に適合しているかどうかの現地検証が必要であることを解説しました。
◯途上国におけるGoogle Earth Engine等を用いた斜面崩壊地の自動抽出(大丸講師、村上講師)
衛星画像を可視化、分析することができる地理空間分析プラットフォームであるGoogle Earth Engineを利用して、災害前後の衛星画像データから斜面崩壊地を自動抽出する技術について、実習を通して実際に体験していただきました。
◯治山事業の海外展開に係る資金ソースと事業とのリンク(民間事業者等)
この講義は、令和5年度技術者研修と同様に以下の3本立てで行いました。
- 日本企業が海外展開に際して活用可能な資金ソースの紹介・説明
- 海外における治山関連事業の準備/実施の経験をお持ちの方々からの資金ソースと事業とのリンクに関する体験談
- 1及び2を踏まえて講師と参加者全員で更なる情報交換をし、見えてきた課題などについての全体討論
講義名:治山事業の海外展開での資金ソースと事業とのリンク
【概要】 この講義は、一昨年令和4年度技術者研修で参加者から前向きなフィードバックを得た講義 「治山事業の海外展開に係る資金ソース」 を令和5年度に拡充して企画構成されたものに新たな資金ソース(円借款)を加えてコンテンツを再拡充し,講師陣の約半数は新たに登壇頂く陣容で実施した.日本企業が海外展開に際して活用可能な資金ソースに関する概要を紹介/説明し、海外における治山関連事業の準備/実施の経験をお持ちの方々からの資金ソースと事業とのリンクに関する体験談を語って頂くことを通じて、治山事業の海外展開での資金ソースの概要とその資金へのアクセスのついて学び、これら情報と体験を踏まえて講師と参加者全員で更なる情報交換をし、見えてきた課題などについて討論することを意図したものである。
【セッション1:日本企業の海外展開に関連する資金ソース】
1-1) JICA 中小 企業・ SDGs ビジネス支援事業 – JICA Biz -
講師:JICA 民間連携事業部 企業連携第一課 課長 樋口辰徳
<要旨> JICA中小企業・SDGsビジネス支援事業は、従来のODAスキームによる途上国の経済・社会課題の解決への貢献に加えて更なる開発インパクトを生み出すことを目的に、民間企業等のビジネスを通じて現地の課題解決に取り組むスキームの一つとして2010年度から導入された制度である。「JICAの強み」である「拠点」、「人」、「情報」を実施基盤とすることで、「JICAの信頼とネットワークの活用」、「質の高いビジネス・アドバイザリ」、「企業認知度の向上」 を狙った制度設計がなされ、企業からも注目を集めた結果、多くの採択実績がある。これまで展開されてきた活用事例を紹介しつつ、現在の支援事業のメニューである「ニーズ確認調査」及び「ビジネス化実証事業」の制度詳細を説明した。現状、案件の募集は年に一度となっている。今年度の公募は9月初めに開始し、9月末が締め切りであった。審査結果の通知は12月下旬頃を予定している。
1-2) JICAによる対インド森林・生物多様性セクター協力概要
講師:JICA南部アジア部南アジア第一課 課長 松野下稔
<要旨> 円借款事業は1958年に対インドで始まり、インドにとって日本は最大の二国間ドナーであり、日本にとってインドは最大の円借款相手である。インドへの協力では技術協力やボランティア派遣が近年拡大している。全世界で特定されている35地域の生物多様性ホットスポットのうち4地域がインドに所在し、森林・生物多様性セクターの援助ニーズが高い。これまで円借款資金は①植林・森林保全、生物多様性保全、②水土保全、③地域開発・生計向上活動、④政府担当部局の能力強化などに向けられている。インドからは治山等の日本の森林管理の技術・ノウハウが引き続き求められている。これまでの協力で築かれた信頼関係に基づき、高度で深刻な社会問題への挑戦が重要である。円借款等のJICA協力によって、①コンサルティング・サービスへの参画、②日印の学術機関の連携(共同研究等)、③民間企業のビジネス推進に繋がる連携等を促進することにより、日本企業の海外展開に貢献できる可能性がある。
1-3) 国際資金:枠組み・動向・活用
講師:森林総合研究所 森林防災研究領域 特別研究員 古市剛久
<要旨> 世界銀行をはじめとした国際開発金融機関の設立経緯や目的、資金の種類、資金の流れなどを概観した上で、世界銀行とアジア開発銀行、多国間拠出ファンドとして地球環境ファシリティ(GEF)、緑の気候基金(GCF)、世界銀行防災グローバルファシリティ(GFDRR)、国連実施機関として世界食糧農業機関(FAO)、国連開発計画(UNDP)、国連防災機関(UNDRR)に注目してそれぞれの概要と動向を説明し、それら国際機関等が持つ開発資金の日本企業による活用について概観した.今ではビジネス機会の獲得につながる情報や資金へのアクセスの間口が大きく開かれている一方で、リスクや競争を考慮に入れる必要があることを紹介した。また、昨年度実施した「案件形成基礎調査」におけるドナーの意見交換会、ドナー及びコンサルタントの意見交換会を通じて理解された現状や課題を紹介し、今後の方策への視点を議論した。
【セッション2:各種資金ソースと事業とのリンク】
2-1) JICA中小企業・SDGsビジネス支援事業の経験とそこからの事業展開
講師:奥山ボーリング(株)技術本部 技術部 専任部長 鈴木聡
<要旨> 当社は2011年にベトナムでの斜面防災調査業務に参画する機会を得て、その業務終了後も自社資金を使って現地企業との技術協定の締結、あるいはベトナムにおいて地すべり研究会を組織して同分野の関係者とのネットワーク作りやベトナム各地での地すべりに関する知見の蓄積に努めてきた。JICA中小企業・ SDGs ビジネス支援事業はそうした取り組みの中で知り、その活用へ向けて検討をした結果として2020年から2022年にかけて案件化調査「ベトナム国斜面災害予防ソリューション」を実施した。JICA支援によるこれらの現地調査から得た成果なども足掛かりとして、ベトナム政府が作成した地すべりハザードマップと連動させる形で、ドローンを用いたレーザー測量による斜面診断や地すべり早期警戒システム、簡易水抜き工などの導入を念頭に事業展開を模索している。
2-2) 海外展開におけるベネフィットとリスク(現地政府資金の事業経験)
講師:川崎地質(株)北日本支社 執行役員支社長 菅野孝美
<要旨> ベトナム国は、拡大メコン圏で最も自然災害が多く、最も人口が多く、防災事業が今後大きく拡大していく可能性のある国である。当社は2012年(平成24年)に経産省補助事業として採択されたことを切っ掛けとしてベトナムでの事業を開始し、以来ハノイに駐在員事務所を設置してビジネス展開を模索してきた。その結果、ベトナム中部高原に立地するダラット市の市街地において発生した地すべり(2017年5月発生)の対策事業をベトナム地方政府(ダラット市)から受注し、2021年1月〜2022年12月を工期としてベトナム企業とJVを組んで調査・施工に当たった。コロナ禍により日本人技術者の渡航が影響を受け、現地業者には地すべり対策工事の経験がないなどの中で施工は困難を極めたが、無事に完工した。施工中、先方政府との意思疎通などでは難しい面も多く日本人単独による対応は困難な状況であったが、完工後の支払いは比較的円滑であった。
2-3) 国際開発金融機関等国際的な資金を使った事業展開へ向けて
講師:国際航業(株)海外コンサルティング部森林グループ グループ長 森川悠太
<要旨> 当社は地理空間情報技術を軸とし、防災・減災、行政マネジメント、インフラマネジメント、脱炭素・環境の分野での技術コンサルティング事業を展開している。森林分野では気候変動(緩和/適応)、REDD+、NbS、Eco-DRR、森林保全、(参加型)森林管理に携わってきた。現在は海外に居住して現地の国連機関職員らとのネットワークを作って情報収集や事業相談を日常的に行っている.その経緯から,国際資金である気候技術センター・ネットワーク(CTCN)及び国際連合開発計画(日本政府補正予算枠:UNDP JSB)それぞれへのプロジェクト要請書を提出してきた.そうした経験についてはコスト面を含めてウェブサイトやSNS上で情報を発信している。技協などのプロジェクト開始時から出口戦略を模索すること,常にアンテナを張ってビジネス情報を逃さないこと、現地傭人を的確に活用していくこと,ロビー活動など関係者へ働きかけていくこと、英語でのドキュメンテーションなど日本企業が不得意な仕事へ対策・対応していくこと,などが国際的な資金を活用する上でのポイントだと考えている。
2-4) 円借款及び国際機関資金の事業経験
講師:日本工営(株)基盤技術事業本部 チーフエンジニア 水口洋二
<要旨> 当社は1998年より森林分野の業務を開始し、ODAによる調査計画、技術協力事業及び円借款事業、ADB資金の技術協力事業などを実施してきた。円借款事業では相手国からの要請書を基に1年程度をかけて準備調査(案件形成調査)を実施して事業の審査検討資料を作成する。正式な貸付契約は準備調査で作成された計画を基にして交渉され締結されることになる。近年多くの森林セクター円借款案件契約が締結されているインドでは、地域(州)を広くカバーする複数のサブプロジェクト/コンポーネント(気候変動適応としての生物多様性保全、水土保全、減災防災を目的とした生態系サービス改善など)で構成される案件が計画される傾向にある。GCFをはじめとした国際機関資金(外部資金)は、申請手続きはとても煩雑でとても時間がかかるが、円借款が見通せないLDCやインフラニーズが高く森林分野への円借款事業の活用を望まない国の場合は、JICA技プロの出口戦略(開発・育成した技術や組織の展開)を考える際の重要な資金源の一つである。将来的にはGCFと民間資金のブレンディングも一案である。
【セッション3:全体討論】
<概要>
治山事業の海外展開に係る資金ソースと事業とのリンクの登壇者全員が再度登壇し、全体討議を行いました。限られた時間の中でしたが、海外の資金ソース側のハードルは多くの事業者が想像する以上に下がっているという認識が示される一方で、ビジネスに至るまでの資金が中小企業にとっては負担が大きいことや、外国政府相手の売り込みには日本政府(林野庁)やJICAのバックアップが必要であり有効であること、JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業を海外展開の取っかかりとして一層活用していけることなどが討論された。